05 席のある幸せ
5月6日、カナダのバンクーバ国際空港にて、東京行きの飛行機に乗るために搭乗手続きを済ませた私は、少し前を歩く日本人の若い女の子がふと足を止めて窓の外の風景を眺め、次の瞬間、声を上げて泣き始めた姿を見とがめました。その女の子の連れの女性が困ったように「ちょっと、そんな、泣かないでよお」となぐさめ、手を引いて飛行機の中に連れていきました。
泣いていた女の子が、カナダを去りたくなくて泣いていたのは一目瞭然。かつての私の姿がだぶりました。もし、その女の子が一人旅だったのであらば、声を掛けて伝えたかった言葉がありました。「涙を流せるだけの想いを持てる場所と絆があるのは幸せなこと。その想いがあれば、カナダはいつでもここであなたの再訪を待っていてくれる。今回の帰国は、次への始まりでもある。」
4月29日から5月7日の9日間、私はカナダへの2年振りの「帰省」を果たしました。もう9年も前になってしまいましたが、1995年にワーキングホリデーで1年間カナダで暮らした私にとって、カナダ、とりわけ長く暮らしたプリンスエドワード島(PE I)と、オンタリオ州トロントとスカボロは、まさに「セカンドホーム」。なので、話をする時には、自然と「帰る」という言葉が口をついて出てきます。
今回は、私の仕事の都合などで、4月中旬にようやく渡航が確定し、更に日程がかなり慌ただしいものになってしまいました。カナダ側の友達の中には、急な渡航決定にび っくりした人も少なからずいらしたことと思います。
さて、今回は、1998年以来6年振りに、私の父が同行する事になり、ずっと願っていた父娘旅が再び叶いました。父自身も、口には出さなかったものの、ずっと再訪を願っ ていたらしく、元気に出発しました。
私達は普通の観光客ではない(?)為に、トロントでも、PEIでも、人に会うスケジュールがびっしりで、PEIに到着した日の午後には州政府観光局と、州政府農業課をスーツ姿で訪問し、そのまま着替える時間が惜しいとスーツ姿で観光をしていま した。父曰く「観光客は年間にたくさんいるだろうけれど、スーツ姿で観光する日本人はあんまりいないよねえ(笑)」
そんな慌ただしくも、充実した日々の中、いつも有り難いと思っていたある事に対して改めて本当に感謝の日々でした。感激の日々でした。・・・それは「席」のある幸せでした。「Emikoと彼女のダディが戻ってくる」と、あちこちの家で、当たり前の様に席を用意して待っていてくれました。ある家では夕食の席、ある家では歓談の席、また、私達が疲れないようにと宿まで出向いてくれた友達も、宿にあるレストランで、久しぶりに語らう為の「席」を用意してくれました。
「お客さんに席を設けるのはあたりまえじゃん」と言うご意見もあることでしょう、確かにそうです。でも、そういった、構える「席」ではないのです。上手く表現できませんが、例えば、普通に雑談していてその家のママに「あんたたち、ごはんよお」と呼ばれて「は〜い」と自然に席に着く・・・そういった「席」なのです。
PEI滞在中は何時も、日曜日には私のPEIファームの所属する教会のミサに参加させていただいています。何時も前の土曜日に、
「明日、教会いくの?」
「ええ」
「私も行っていい?」
「ええ、いいわよ」
と、これだけの会話で、私の座る席がちゃんとあるのです!
私は決して有名人でもなければ、資産家でもなく、非力な一人の女性です。彼ら彼女らに何か凄いことを返せる力などはありません。でも、だからこそ、尚更席を用意していただける幸せを感じることが出来るのかも知れません。彼らは看板つきではない「ありのままのEmiko」の席が自分のエリアにあるのを自然に思ってくれているのです。こんな有り難い事って!
だから、かつてはカナダを去る飛行機に乗る時は勿論、PEIを去る飛行機に乗る時にはそれこそ大泣きしていた私は泣かなくなりました。代わりに「必ずまた直ぐに帰ってくるからね」と心の中で大地に話かけています・・・
(2004.5.10記)